うごくあつお
【はぁと編】

あつお

本当に好きだから、、
そこには嫌いもまじってる。
本当に嫌いなら、、
そこに好きがみつかるはず。

あつおとあつこの壮大な
スタンプラブストーリーが
今、ここにはじまる、、。

【1】
今日は何の日?

あつお

「あつお、ちょっと話があるんだけど、、」そう言って七沢温子(ななさわあつこ)はあつおを呼び止めました。「なんだよ話って。俺、急いでんだけど」塾に向かおうとしていたのか、あつおはそっけない返事をしました。第一志望の学校に落ちてしまったので、この所ずっとイライラしているようです。

「ねえ、今日は何の日だか分かる?」温子はたずねました。「知らねえよ、おまえのくだらない質問ごっこはウンザリなんだよ」あつおは自転車の鍵を開け、先を急ぎます。「ちょっと、今日は何日だと思ってるのよ」そう言いながら温子は自転車の前に立ち塞がりました。「うるせーな、質問ごっこはウンザリだって言ったろ、どけよ」あつおが温子を押しのけた瞬間「あつお〜、行くぞぉ〜」と元気よく手を振る女子がいました。

「鮎美、どうして、、」温子はあつおの背中を見ながら、なぜ鮎美があつおと一緒に行くのか考えています。鮎美は推薦で受験も一足先に終わっているし、工科大の家庭教師がついているので塾には行く必要がないはず。それなのにどうして、、。

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【2】
追跡

あつお

 考えていてもらちがあかないので、温子はあつおの後を追いました。あつおは鮎美に歩調を合わせ、自転車を引いて何やら楽しそうに話しています。

「いったいどーゆーこと?よりによってこんな日に。鮎美のやつどういうつもりなんだろう、てか二人してどこ行くの?」次々と疑問が温子の頭の中を駆け巡りました。「こんな大切な日に、あいつなにやってんのよ」温子は蚊の泣くような声でつぶやきました。

 そう、ここで温子が言う大切な日というのはいったい何なのか、それを説明しなければなりません。

 本日は二月十四日、バレンタインデーです。バレンタインデーというのはチョコレート会社が皆にチョコレートを買わせるために、この日だけは「意中の男性にチョコレートをあげれば告白したことにします」という日です。最近ではチョコレート会社もやけになったのでしょうか義理チョコ、友チョコなとど言って誰にでもチョコレートを売りつけています。そんなバレンタインデーの日に、温子はあつおにチョコレートをあげようと決めていました。しかし今はそれどころではありません。

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【3】
あつおと温子

あつお

 温子は気づかれないようにあつおの後を追っています。二人は本厚木駅の南口を通り抜けていきました。どうやら向かう先は駅から近くにある壁の高い大きな家、そう、鮎美の家に向かっているようです。なぜ二人が鮎美の家に向かっているのか?それを考える前に少しばかり、あつおと温子の関係について話しておかなければなりません。

 あつおと温子はいわゆる幼なじみというやつです。同じ厚木の団地で育ち、家が隣同士なので自然と仲良く遊ぶようになりました。

 小学五年生の時に同級生の豚漬一(とんせいいち)が二人のことをからかって以来、あつおは学校で温子のことを避けるようになりました。しかしお互いの親同士、仲がよかったため一緒に鍋をつついたりと家族ぐるみで過ごすことがよくありました。そしてそんな時、あつおは温子にとてもやさしかったのです。

 やさしかったあつおの思い出に浸っていたのもつかの間、二人は鮎美の家へと入って行きました。

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【4】
相模鮎美

あつお

 相模鮎美(さがみあゆみ)は厚木で有名な資産家の一人娘として生まれました。両親が年を取ってからの子どもだったことも重なり、とても甘やかされて育ちました。両親の醜い容姿とは裏腹に、とてもきれいな顔立ちをしていたので「きっとあの子は実の子ではないんだろう」と陰口を叩かれることもありました。

 鮎美の記憶では両親から「ダメ」と言われたことがありません。欲しいものは全て買ってもらえたし、食べ物の好き嫌いを咎められたこともありませんでした。鮎美が小学校六年生の頃、試しに父親に聞いたことがあります。

 「すごく嫌いな人がいるんだけど殺してもいい?」と。

 父は「いいよ」と、いつもと変わらず言いました。「冷蔵庫のプリン食べてもいい?」と聞いた時に言う「いいよ」となんら変わりがありません。あまりにも普通にそう言うので不安になり、台所にいた母の所に行って、さっき言ったことを告げると母は笑って「お父さんがそう言うならいいよ」と言ったのです。

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【5】
監視カメラ

あつお

 さて一緒に鮎美の家に入っていったあつお達はどうなったのでしょうか。二人の後をつけていた温子は鮎美の家の大きな門の前で立ち往生していました。

「ちくしょう、あいつら中で何やってんだよ」 グッと歯を噛み締めて、温子は心の中でつぶやきました。

 冷たい風の吹く中、温子はただ門の前で突っ立っています。何もできずにイライラし、どこかに怒りの矛先を探しています。ふと門を見上げるとたいそうな監視カメラがじぃっ〜と温子のことを見つめているようです。

 温子は突然つぶやきました。

「ビッグブラザー・イズ・ウォッチング・ユー」

 そしてカバンから持っていたチョコレートを取り出し、監視カメラめがけて思い切り投げつけたのです。チョコレートは見事カメラに命中しましたが、その時レンズの横が赤く点滅したように感じました。温子はとっさに「やばい」と感じ、その場から走り去りました。

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【6】
水色のチョコレート

あつお

 さて、温子が監視カメラにチョコレートを投げつけた頃、あつおはチョコレートを食べていました。もちろん食べているのは温子が投げたものではなく、鮎美からもらったものです。そのチョコレートは四角い水色の缶に入っており、付属の金色のスプーンですくって食べるという、見るからに値段の高そうなもでした。その味はといえば、あつおが今まで食べていた明治ミルクチョコレートやアポロ、クランキーなどといったものと並べて語れるようなものではありません。

「う、うめー。こんなのはじめて食べた」あつおはあまりのおいしさで大げさに感動しています。

「気に入ってくれてよかった」鮎美はうれしそうに答えます。

「で、チョコあげたってことはさ、分かるよね?」鮎美はあつおに問いかけました。

「分かるって何が?」あつおは鮎美が何を言いたいのかまったく分かりません。

「全部言わせる気?」

 鮎美は言葉とは裏腹に何か言いたくてたまらないようなそぶりを見せています。

「全部って何だよ?」

 あつおは鮎美が何を言いたいのか全く分かりません。「それにしても今日は訳のわからない質問をよくされる日だな」と思いながら貰ったチョコレートを脇目も振らずに金の匙ですくって食べています。

 あつおが質問に答える気のない事を察した鮎美は意を決しました。

「あのさぁ、わたし、、」

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【7】
厚木中央図書館

あつお

 監視カメラにチョコレートを投げつけた後、温子は駅に向かって走っていました。南口からミロードのミニプラを通り抜けて東口に出ると、運良く青だった信号にも助けられ、そのまま走り続け図書館の前まで来ていました。

 息を切らしながら図書館の階段を登り、左手にある漫画コーナーに行こうとしました。しかし人が多かったので雑誌コーナーへと進路を変更しました。雑誌コーナーで唯一興味のある装苑を手に取り、近くの空いている席へと座りました。

 温子は何か嫌な事があると図書館へ来て時間をつぶす癖がありました。今回もどうやら無意識のうちにここまで来たのでしょう。最近だとジョージ・オーウェルの「1984」をここで読み終えたばかりです。そう、温子が監視カメラの前で言った「ビッグブラザー・イズ・ウォッチング・ユー」という言葉はこの本に書かれていたものです。あつおに対する怒りと、監視カメラ、そしてジョージ・オーウェルの「1984」が温子の中でシンクロし、あのような行動に至ったと考えられなくもありません。

 温子は装苑をパラパラとめくっていますが、心ここに在らずといった感じです。「もしかして警察に通報されたのではないか」という考えが頭をよぎります。雑誌の内容は温子の頭に入ることなくあっという間に最後のページをむかえました。すると背表紙になにやらテープで紙が一枚貼り付けらている事に気づきます。そしてその紙には次のように書かれていました。

「風を売る商店は不定期に開かれるお店です、少し変わったあなたのお越しをお待ちして居ります」

「風を売る?何それ」

 温子は落ち着こうと心がけました。それに反して心臓はドクドクじわじわとあばれまわっています。「なぜあんなことをしてしまったのだろう」自分が自分でないような、もう何かどうでもいいような。ふとそこに書いてある地図に目をやると、その風を売る商店というのは図書館のすぐ近くにあるようです。

「行ってみよう」温子はそう思うと同時に席を立ち、図書館を後にしました。

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【8】
告白

あつお

「あのさぁ、わたし、、」

「あつおが好き」

 相模鮎美はハッキリと言いました。

 一秒、二秒、三秒、二人に沈黙が訪れます。たった三秒ですが永遠に感じられる時間が流れています。

 そこに突然、その永遠の三秒を断ち切る、絶妙のタイミングでドアをノックする人物が現れました。

「鮎美、ちょっと入るよ」

 返事を待つ事もなく鮎美の母親が入ってきました。

「今、あなたの学校の子が玄関の前に来てたみたいだけど何かあったの?」鮎美の母親は間髪入れずに 問いただしました。

 なんという偶然なのでしょう、鮎美が告白したのと温子が監視カメラにチョコレートを投げつけたのは、ほぼ同時刻だったのです。

「いや、ちょっとよくわかんない」

 一世一代の告白をよりによって母親に邪魔された鮎美はイラついて答えました。今の鮎美に大事なのは玄関前ではなく、今この部屋で起こっていることなのです。

「そう、ならいいんだけど」

 鮎美の母親は何か言いたげでしたが、いつものように何を言うわけでもなく部屋を後にしました。「ならいいなら聞くな」鮎美はいつもの母親のはっきりしない物言いに、この日ばかりは四割り増しで腹が立ちました。母親が部屋を出て行き振り返ると、そこには呑気に、さっきの自分の告白などなかったかのように金の匙でチョコレートをすくって食べているあつおがいました。

 それを見た鮎美は、なんだか可笑しくて、「もうどうでもいいや」という気持ちになりました。そしてあつおに言いました。

「ねえ、私たちつき合おうよ」

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【9】
風を売る商店

あつお

 図書館を後にした温子は地図アプリを見ながら目的地に向かっています。アプリは目的地までを五分と告げました。図書館を出て高架下駐輪場方面へと向かい、そこから二度ほど角を曲がると目的地に着きました。そこは変わった建物で、一階は見た所イタリアンレストランのような外見です。「ここか」と思い扉の方へ行き、中を覗くとどうやら営業していないようです。カメラで撮っておいた住所をもう一度確認すると【アパルトマンドゥマリー208】となっています。言葉で説明するのは難しいですが、確かにその建物は、確実に、アパルトマンドゥマリーといった風体をしていました。

「二階か」温子はすぐそばに階段があるのを見つけ登っていきました。螺旋状の階段を上るとそこには通路に入るための扉があったので、扉を開けて薄暗い通路を進みました。通路の中程、インターフォンの横に「風を売る商店」という表札が出ていました。

「ここ、か」温子はドアの前で突っ立っています。すると少し前に、相模鮎美の家の大きな門の前で投げつけたチョコレートの記憶が蘇ってきました。記憶は断片的で、監視カメラにチョコレートが命中した瞬間や、「ヤバい」と思った時に背筋がゾクっとした感触、自分を見つめる監視カメラに対する破壊衝動、それらが時系列を無視して襲いかかりました。今にもその場で座り込んでしまいそうになった温子は、それを振り払うように自分の頬を両手で二回叩きました。

「もうどうだっていい」

温子はインターホンを押しました。

うごくあつおスタンプ

*この物語はスタンプの売れ行きによって更新されています。次が更新されていないならばそう、スタンプが売れていないということです。