B品という世界

印刷物が届いた。手に取って、ぱらぱらとページをめくる。ふと、指が止まった。スレがある。思ったよりも大きい。うっすらではなく、しっかりと。

こういうのは気になる。仕方がない。デザインを生業にしていると、こういう細部にどうしても目が行ってしまうものだ。

気になったら、とりあえず聞いてみる。電話をかける。印刷会社の担当者が出た。要件を伝えると、向こうは落ち着いた声でこう言った。

「スレはありますが、文字は読めますよ。」

なるほど、確かに、読める。読めるには読める。でも、それでいいのか。

これを手に取った人は、ただ「読める」と思うのか、それとも「なんだか汚れている」と感じるのか。

「文字は読める」—— それが基準になるなら、ずいぶんと潔い話だ。刷り直すよりも、そのまま使った方がいい。エコロジーの観点からすれば、たしかに正しい。インクも紙もエネルギーも余計に使わずに済む。

でも、だからといって見た目の問題を無視していいのか。「ミスプリントですか?」と問われるような仕上がりなら、デザインとしては失格ではないか。

こだわる。けれど、こだわりがムダを生むこともある。デザインとは、そういう矛盾を抱えながら進めていくものなのかもしれない。もし社会全体が「文字は読めればOK」という基準を受け入れたら、どれほどの印刷物がB品にならずに済むだろう。どれほどの資源が無駄にならずに済むだろう。

エコとかサステナブルとか、最近はよく聞くけれど、それは本当に無駄をなくすためのものなのか。それとも、作り手の気休めに過ぎないのか。

意識を変えるには、社会全体が動かなければならない。でも、一人でどうにかできるものでもない。

それでも、デザインで何かを変えられるなら。それができたら、どんなに楽しいだろう。

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